暗号資産を自社で受け取る ── 日本の法的地位と税務(2026 年 9 月時点)
暗号資産の決済代行で日本の登録があるのは、PRL が確認した 7 社のうち 1 社
この文書は、日本の事業者が自社の商品・サービスの代金を暗号資産で受け取る場合に、何の法律がどう関わるかを、条文と当局の公表文書の引用で示す。PRL は法律事務所でも税理士事務所でもない。ここに書くのは条文の引用と、それに基づく PRL の読みであり、個別の判断は専門家に確認してほしい。
先に全体を 3 行で。
- 受け取る側に登録や届出を求める条文は無い。登録が要るのは「暗号資産の売買・交換・その媒介・他人のための管理」を業として行う側
- 税務では、受け取った時の時価が売上になり、持ち続けると法人は期末に時価で評価される。消費税は円で受けた時と同じ
- 2026 年 7 月 15 日に成立・7 月 23 日に公布された改正法で、暗号資産の規制は 2027 年中に資金決済法から金融商品取引法へ移る。個人の分離課税と消費税の分類の変更は 2028 年 1 月 1 日から
1. 受け取ること自体
条文。 資金決済法が登録を求める「暗号資産交換業」は、次の 4 つのどれかを業として行うことだ(2 条 15 項・63 条の 2)。
- 暗号資産の売買、または他の暗号資産との交換
- 1 の媒介・取次ぎ・代理
- 1・2 に関して利用者の金銭を管理すること
- 他人のために暗号資産を管理すること
「業として」は、対公衆性のある行為を反復継続して行うことをいい、個別に実態で判断される(金融庁 事務ガイドライン 第三分冊 16)。
PRL の読み。 自社の商品の代価として暗号資産を受け取り、自分の計算で保有し、売る時は登録業者に注文を出す事業者は、この 4 つのどれも行っていない。売っているのは自社の商品であって暗号資産ではなく、管理しているのは自分の暗号資産であって他人のものではない。したがって受け取る側に登録は要らない、と PRL は読む。
当局が答えていないこと。 金融庁は、店が代金として暗号資産を受け取ること自体について、直接の見解を公表していない。2017 年の制定時のパブリックコメントには「仮想通貨で代金を受領する店舗に即時に法定通貨に換えるサービスを提供する場合」(問 100)と「商品やサービスの代金の収納」(問 101)の問いがあるが、答はどちらも「資金移動業の該当性は個別事例ごとに取引の実態に即して実質的に判断されるべき」で、店の側の地位には触れていない。上の読みは条文の当てはめであり、当局の回答ではない。
2. 決済代行を使う場合
条文。 加盟店の代わりに暗号資産を受け取り、円に換えて渡す業者は、暗号資産の売買(1)と他人のための管理(4)を業として行うので、登録が要る。2020 年の改正時のパブリックコメントで、金融庁は「秘密鍵を一切持たない事業者は、他人のために暗号資産の管理をすることに該当しない」と答えている(問 9)。秘密鍵を持たない中継型(支払いを検知して通知するだけで、暗号資産は事業者のウォレットに直接届く型)は 4 に当たらない、という線引きがここにある。
登録を受けていない外国の業者は、国内にいる者に対して勧誘をしてはならない(63 条の 22)。この禁止は業者に向いており、業者を使う事業者を罰する条文は無い。
現在の登録の状況。 PRL が観測対象として登録している暗号資産の決済代行 7 社のうち、金融庁の暗号資産交換業者登録一覧(令和 8 年 9 月 1 日現在・27 社)に載っているのは 1 社だけだ。
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| 業者 | 型 | 日本の登録 | 日本語の案内 |
|---|---|---|---|
| Zaif Payment(株式会社Zaif) | 代行型 | 近畿財務局長 第00001号(2017-09-29) | あり |
| Slash | 代行型 | 一覧に無し | 確認できず(公式サイト取得不可・9/27〜28) |
| CoinGate | 代行型 | 一覧に無し | 無し |
| BitPay | 代行型 | 一覧に無し | 無し |
| NOWPayments | 代行型 | 一覧に無し | 無し |
| Triple-A | 代行型 | 一覧に無し | 無し |
| Crypto.com Pay | 代行型 | 一覧に無し | 無し |
「一覧に無し」は、PRL が確認した名称で登録一覧に見当たらないという意味で、無登録で違法だという意味ではない。日本の居住者に勧誘していない外国業者は、63 条の 22 の対象にならない。
各社の型・対応通貨・公式 URL は暗号資産決済サービスの一覧に並べている。
2027 年以降。 金融審議会のワーキング・グループ報告(2025 年 12 月)は、外国の無登録業者が日本語のサイトで日本の居住者に勧誘している場合に警告・公表で対応している現状を述べたうえで、「金商法上、外国証券業者が、勧誘することなく本邦居住者からの注文を受けて取引を行うことは認められており、暗号資産取引についても同様のルールを整備」することが適当とした。事業者の側から海外業者に申し込む形の扱いが、改正後に明文化される方向にある。
3. 円建てステーブルコイン
条文。 円などの通貨建てで発行され、券面額での償還を約するものは「電子決済手段」で、暗号資産の定義から除かれている(2 条 5 項・14 項)。発行と償還は為替取引にあたり、銀行か資金移動業者だけが行える(2 条 2 項・2022 年の法律案説明資料)。売買・媒介・他人のための管理を業として行うには「電子決済手段等取引業」の登録が要る(2 条 10 項・62 条の 3)。
現在の登録の状況。 円建てステーブルコインを発行する JPYC 株式会社は、資金移動業者(第二種)として登録されている(関東財務局長 第00099号・2025 年 8 月 18 日)。電子決済手段等取引業者の登録は 2 社(SBI VC トレード・コインチェック・令和 8 年 8 月 27 日現在)。第二種資金移動業は 1 件あたり 100 万円(資金決済法 36 条の 2 第 2 項・同法施行令 12 条の 2 第 1 項)までの為替取引に限られる。
受け取る側。 電子決済手段を代価として受け取る側の地位は、節 1 と同じ論理で、4 つの行為のどれにも当たらない。税務上は券面額が取得価額で、金銭債権として扱われる(国税庁 FAQ 3-2-1)。
PRL の見解。 事業者にとって、地位と税務の扱いが円に最も近いのは円建てステーブルコインだ。受け取った額が円で確定し、期末の時価評価も、売却時の損益も生じない。暗号資産と違い、円に戻す時は発行者の償還か取引業者を通す。ただし現時点で受け取れる相手も、対応する決済代行もほとんど無く、1 件あたりの上限もある。「止まらない手段」の候補として最初に条件を確かめる価値がある、というのが PRL の見解であり、推奨ではない。
改正後。 2026 年の改正法で資金決済法から削除されるのは暗号資産交換業の章(第 3 章の 3)で、電子決済手段の章は削除の対象に挙がっていない(法律案要綱)。
4. 税務
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| 場面 | 現在 | 2028 年 1 月 1 日から |
|---|---|---|
| 受け取った時の売上 | 受領時の時価(国税庁 FAQ 1-5)。対価を金銭以外で受けた場合の消費税の課税標準は取得時の価額(消費税法 28 条 1 項・同法施行令 45 条 1 項) | 変わらない |
| 売上の消費税 | 商品・役務の譲渡として課税。円で受けた場合と同じ | 変わらない |
| 受け取った暗号資産を売った時の消費税 | 非課税(支払手段に類するもの・消費税法施行令 9 条 4 項) | 非課税のまま「有価証券に類するもの」に分類が変わり、課税売上割合の計算で対価の 5% を算入する(大綱・施行令の 2028-01-01 施行版) |
| 法人が期末に持っている場合 | 活発な市場がある暗号資産を自己の計算で持つと時価法で評価し、評価損益が所得に入る(法人税法 61 条 3 項・FAQ 3-1-3) | 変わらない |
| 個人事業主の売却益 | 原則 雑所得として総合課税。年の収入が 300 万円を超え帳簿書類の保存があれば原則 事業所得(FAQ 2-2) | 暗号資産取引業者に対する登録暗号資産の譲渡は分離課税 20%(所得税 15%・住民税 5%)(大綱) |
| 円建てステーブルコイン | 券面額が取得価額・金銭債権(FAQ 3-2-1) | 変わらない |
PRL の読み。 事業者の実務で効くのは 2 点。受け取った暗号資産を持ち越すなら期末の評価損益を織り込むこと、そして 2028 年の変更は個人の分離課税が中心で、法人が受け取る場面の扱いは大きく変わらないこと。
5. マネーロンダリング対策
犯罪収益移転防止法のトラベルルール(送金時に送り手と受け手の本人特定事項を通知する義務)は、暗号資産交換業者と電子決済手段等取引業者に課されている(10 条の 5・10 条の 3)。自社で受け取る事業者は、犯収法 2 条 2 項の特定事業者に一般の物販・役務の事業者として含まれない(貴金属・宝石等の売買業者〈43 号〉や宅地建物取引業者〈42 号〉など、列挙された業種を除く)ため、犯収法上の義務は無い。取引所から円を受け取る時の本人確認は、取引所の側の義務として行われる。
6. 2026 年改正と、この文書の更新
改正法(金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律・令和 8 年法律第 64 号)は 2026 年 7 月 23 日に公布された。無登録業者への罰則の引き上げは 8 月 12 日に施行済み。本体は公布から 1 年以内の政令で定める日から施行され、一部は 2027 年 4 月 1 日・10 月 1 日(法律案要綱)。施行日を定める政令は 2026 年 9 月 28 日時点で未公布(上限は 2027 年 7 月 22 日)。暗号資産交換業者は「暗号資産取引業者」に名称が変わる。
税の変更(個人の分離課税・消費税の分類)は「施行の日の属する年の翌年の 1 月 1 日」から適用され、消費税法施行令の 2028 年 1 月 1 日施行版が既に公布されている。
この文書は、施行日の政令・事務ガイドラインの改定・登録一覧の更新のたびに見直す。
出典
- 参議院 議案情報「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(第 221 回国会 閣法 57・令和 8 年 7 月 15 日 可決・成立)https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/221/meisai/m221080221057.htm
- 資金決済に関する法律(e-Gov・令和 8 年法律第 64 号の 2026-08-12 施行分まで)https://laws.e-gov.go.jp/law/421AC0000000059
- 資金決済に関する法律施行令(e-Gov)https://laws.e-gov.go.jp/law/422CO0000000019
- 金融庁 事務ガイドライン 第三分冊 16・17・18 https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/16.pdf ・ https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/17.pdf ・ https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/18.pdf
- 金融庁 暗号資産交換業者登録一覧(令和 8 年 9 月 1 日現在)https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kasoutuka.pdf ・電子決済手段等取引業者登録一覧(同 8 月 27 日)https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/denshikessaisyudan.pdf ・資金移動業者登録一覧(同 7 月 31 日)https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/shikin_idou.pdf
- 金融庁 パブリックコメントの回答(2017 年 3 月・2020 年 4 月・2023 年 5 月)https://www.fsa.go.jp/news/28/ginkou/20170324-1/01.pdf ・ https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200403/01.pdf ・ https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230526/01.pdf
- 金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」説明資料・要綱(2026 年 4 月)https://www.fsa.go.jp/common/diet/221/02/03.pdf ・ https://www.fsa.go.jp/common/diet/221/02/04.pdf ・2022 年 3 月の法律案説明資料(電子決済手段)https://www.fsa.go.jp/common/diet/208/03/setsumei.pdf
- 金融審議会 暗号資産制度に関するワーキング・グループ報告(2025 年 12 月 10 日)https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20251210/01.pdf
- 国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」(令和 7 年 12 月 26 日)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/virtual_currency_faq_03.pdf
- 消費税法・消費税法施行令・法人税法・犯罪による収益の移転防止に関する法律(e-Gov)https://laws.e-gov.go.jp/law/363AC0000000108 ・ https://laws.e-gov.go.jp/law/363CO0000000360 ・ https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034 ・ https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000022
- 財務省「令和 8 年度税制改正の大綱」(令和 7 年 12 月 26 日閣議決定)https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/20251226taikou.pdf
最終確認 2026-09-28。改正法の施行日を定める政令が出たら、節 6 とこの日付を更新する。