PAYMENT RISK LAB ── 金融検閲・決済リスクの定点観測
実務知見

「高リスク」のラベルは誰が貼るのか——事業者が自分のMCCを知らない構造

2026年8月31日 文: K所長

2024年、国内のプラットフォームが相次いでVisa・Mastercardの決済を止められたとき、多くの事業者が最初に口にしたのは「なぜうちが」でした。この問いへの答えの一部は、事業者自身の手元にはない4桁の数字にあります。

私はこの記事を書くにあたり、自分の決済実務でその数字を一度でも見たことがあるか思い返しました。ありませんでした。契約書にも、管理画面にも、月次の明細にもなかった。この記事は「なぜ見えないのか」を、国際ブランドが公開している規程から読み解きます。

1. MCCとは何か——コード表は公開されている

MCC(Merchant Category Code・加盟店カテゴリコード)は、加盟店の主たる事業を表す4桁の数字です。国際規格ISO 18245に基づき、Visaは「Merchant Data Standards Manual」(加盟店データ標準マニュアル)として毎年4月と10月に更新版を公開しています。Mastercard・Amexも同様のコード表を持ち、Amexは加盟店規程の日本語版を公開しています。

つまりコード表そのものは秘密ではありません。どの番号が何の業種で、どの番号が「高リスク」として扱われるかは、誰でも読めます。

2. 誰が、いつ、何を根拠に貼るのか

Visaの規程は、MCCの割り当てを次のように定めています(2026年4月版・要旨)。

  • アクワイアラ(加盟店を審査・管理するカード会社側の金融機関)とその代理人が、各加盟店に正しいMCCを割り当てる義務を負う
  • 決済代行(Visa用語では Payment Facilitator)は第三者であるため、配下のすべての加盟店の事業を評価し、各加盟店に最も適切なMCCを割り当てなければならない
  • 加盟店が複数の事業を持ち、その一部が「高インテグリティリスク」に該当する場合、その事業には高リスクのMCCを、それ以外の事業には別のMCCを割り当てなければならない
  • Visaは割り当ての訂正を要求する権利を保持する

割り当ての根拠は、加盟店が申込時に提出した事業内容の書類です。加盟店はMCCを自分で選べません。Stripeの解説も「事業者が固有のMCCを割り当てることはできない」「特定のMCCを指定するようリクエストすることはできる」と説明しています。

ここまでを図にすると、事業者の位置がはっきりします。

事業者 自分の番号を見ない 事業内容の書類 アクワイアラ/決済代行 MCCを割り当てる 根拠: 書類・売上構成 登録・報告 国際ブランド コード表を公開・訂正を要求 取引ごとに送信 イシュア(発行会社) 明細の分類・リスク判定に使用
図1 MCCは事業者の書類を根拠にアクワイアラ/決済代行が割り当て、国際ブランドと発行会社へ流れる。番号を見ないのは、流れの起点にいる事業者だけ。

3. 「高リスク」のラベルと、その帰結

Visaは2026年4月版の規程で、次のMCCを「高インテグリティリスク」と定めています。

表1 Visaが高インテグリティリスクと定めるMCC(2026年4月版)

MCC 区分 適用条件
5122/5912 医薬品・薬局 カード非提示取引すべて(5912はアジア太平洋地域では国外取引を行う場合のみ)
5966 ダイレクトマーケティング(アウトバウンド) カード非提示取引すべて
5967 アダルトコンテンツ・サービス カード非提示取引すべて
5993 たばこ カード非提示取引すべて(アジア太平洋地域では国外取引を行う場合のみ)
7273 出会い系・エスコート カード非提示取引すべて
7995 賭博 カード非提示取引すべて
4816 サイバーロッカー・ファイル共有 該当取引のみ
6211 高リスク金融取引プラットフォーム 該当取引のみ
5968 ネガティブオプション型定期購読 該当取引のみ
5816 スキルゲームの賭け 該当取引のみ
6051/6012 暗号資産(取引所・ウォレット・オンランプ) 該当取引のみ

出典: Visa Merchant Data Standards Manual, April 2026, Section 1「Mandatory Multiple MCCs」(当観測所訳・要旨)

このラベルが付くと何が起きるか。Visaの規程本文が定めるのは「別MCCの割り当て義務」と「登録」であり、それ以上の帰結——登録料、手数料率、監視の強度——は各アクワイアラの契約と料金表に委ねられています。当観測所が確認できる範囲で言えるのは、ラベルが付いた事業者は、アクワイアラにとって「登録が必要で、ブランドの監視対象になる顧客」に変わるということです。前回の記事で書いた「毎月見られている数字」は、このラベルの上で見られています。

注意すべきは5967の名称です。かつては「Direct Marketing – Inbound Teleservices」(ダイレクトマーケティング・受信型)という一般的な名で、2026年4月版では「Adult Content and Services」(アダルトコンテンツ・サービス)と明記されています。番号は同じまま、名前だけが正体を表すようになりました。

4. 日本の事業者にとっての意味——「持っていない」のではなく「見せられていない」

この記事を書き始めたとき、私は「決済代行の包括加盟店の下にいる事業者は、そもそも自分のMCCを持っていないのではないか」と考えていました。規程を読んで、これは訂正します。Visaの規程は決済代行に対し、配下の各加盟店を個別に評価して割り当てることを義務づけています。ラベルは、貼られています。

見つからなかったのは、貼ったラベルを貼られた側に通知する義務です。Visaの規程にも、Amexの日本語規程にも、私が読んだ範囲でその条項はありません。国内の決済代行の加盟店規約にMCCの通知条項を置いている例も、当観測所はまだ確認できていません(確認範囲は限定的・確度: 低)。海外の解説には「境界線上の事業は、誰にも気づかれないまま何年も間違ったコードのままになりうる」という記述があり、Visa自身も規程で「割り当ての定期的な見直しを強く推奨する」と書いています。見直しを推奨するということは、間違ったままの割り当てが現実に存在するということです。

もう一つ、日本のプラットフォームの構造に直結する規程があります。一般向けと成人向けを同居させる事業者は、規程上、成人向け部分に5967を、それ以外に別のMCCを割り当てなければなりません。2024年に国内で起きた停止の多くが「成人向けのみ」という範囲で切られたのは、この2枚のラベル構造と整合します(推測・確度: 中。停止の判断主体と根拠は各レコードのattributed_causeを参照)。

5. 自分のラベルを知る方法

MCCを知る経路は、現状2つしかありません。

表2 自分のMCCを確認する方法

方法 手順 限界
契約先に問い合わせる アクワイアラまたは決済代行に、自社に割り当てられたMCCを照会する 回答義務はない。海外PSPの一部(Stripe等)は管理画面・APIで表示する
自分で取引して確かめる 自社のカードで実取引し、発行会社側の明細分類やアプリの表示から推定する 発行会社の分類はMCCそのものではなく、ブランドごとに扱いが異なる

割り当てが事業実態と違うと考える場合、事業モデルの証拠を添えて変更を依頼できます。ただし加盟店側から「有利な番号」を選ぶことはできず、Visaの規程は「最も正確に事業を表すMCC」「複数事業なら売上が最大の事業のMCC」を求めています。

6. 所長の見立て

ラベルの一覧は公開されている。非公開なのは、あなたに貼られたラベルだけ。これがMCCの構造です。

決済の実務をやっていて、自分の事業に付いた番号を一度も見ないまま何年も過ごすのは、異常ではなく標準です。契約書は「審査に通った」ことしか伝えず、その審査があなたをどの棚に置いたかは伝えない。前回書いた「審査に残る」ための数字は、その棚ごとに違う基準で見られています(確度: 高)。

事業者が最初にやるべきことは、対策より先に、自分の番号を聞くことです。聞いても答えが返らないかもしれない。それでも、聞かなければ、次に届く「総合的判断」の通知が何を計算した結果なのか、永遠に分かりません。


出典

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本記事の正典URLはこのページです。データの引用はCC BY 4.0(出典: 決済リスク観測所)。誤りの指摘は情報提供窓口へ。