経路は業種ではなく法人の所在で決まる
「成人向けだから止められた」。決済停止の告知が出るたびに、そう受け取る事業者が多いと思います。半分は正しい。止める判断はアクワイアラ(加盟店を審査・管理するカード会社側の金融機関)と国際ブランドが下していて、業種はその材料の一つです。しかし、どのアクワイアラの前に立つかは、業種の前に、法人をどこに置いたかで決まっています。この記事は、今週の実測 4 件と Visa の規則、経産省の調査の 3 つを重ねて、その順番を示します。
1. 同じ業種で 4 つの顔
2026年9月16日に決済画面を見た 4 サービスは、いずれも成人向けの区分に入ります。経路は全部違いました。
| サービス | 決済画面で見えたカード | 通貨・請求元の表記 | 記録 |
|---|---|---|---|
| DLsite | JCB のみ。Visa・Mastercard・Amex は別法人が運営する For Books(Shopify)でギフトカードを買う経路にのみ表示 | 円建て | PRL-2024-001 |
| FC2(コンテンツマーケット・ライブアダルト) | クレジットカード(ブランド不明) | 「$1.00=154.24円にて…ドルまたは…ユーロに換算し決済します」 | PRL-2022-003 |
| ジュエルライブ・マダムライブ(BIGSUN) | Visa・Mastercard・JCB | 「いずれのクレジット決済につきましても【円建て】」 | PRL-2026-011・012 |
| Steam(成人向け作品) | Visa・Mastercard・JCB・国内カード | 「Powered by Degica」 | PRL-2025-003・005 |
表 1: 2026年9月16日の実測(Mahh・日本 VPN・購入なし)。観測表 data/state/observed_availability.json の OBS-00113〜128(DLsite)・00072〜089(FC2)・00129〜144(Steam)ほか。
業種が同じなら同じ扱いを受けるはずだ、という前提がここで崩れます。違いを生んでいるのは何か。
2. 規則が先に決めていること
Visa Core Rules(2026年4月18日版・公開 PDF・p.100〜103)の 1.5.1.1 は、アクワイアラが受け付けられる加盟店の拠点を自らの所在国(Country of Domicile)の中に限っています。1.5.1.2 は、カード非対面の取引で加盟店の所在を「主たる営業所(Principal Place of Business)の国」と定め、所在地の書き換えを禁じています。例外は Visa の個別承認、航空会社、在外の軍事基地・大使館、EU 域内のパスポーティングなどで、日本法人が海外のアクワイアラと直接契約する道は原則としてありません。
決済代行(Payment Facilitator)を挟めば国外の加盟店とも契約できる、という条項もあります。ただし脚注 6 が付いていて、原文は "This does not apply to High-Integrity Risk Merchants"。高リスク区分の加盟店には、この例外を適用しない。成人向けはこの区分に入るとみられます(確度: 高。世界 IPSP マスタ v0.5 §9 の読み)。区分を決める MCC の一覧は非公開の Visa Integrity Risk Program Guide にありますが、同じ規則の p.108 は成人向けコンテンツ(MCC 5967)の加盟店に同 Guide の条項を加盟店契約へ入れることを義務づけており、成人向けがこの枠組みの中にあることは規則の側でも確認できます。
つまり順番はこうです。
- 法人の所在が、契約できるアクワイアラの地域を決める
- そのアクワイアラと国際ブランドが、業種と数字(チャージバック率・処理量)を見て可否を決める
- 事業者に見えるのは 2 の結果だけ
表 1 に戻ります。For Books は株式会社forcs(ゲオグループ)が運営する別の店で、DLsite の支払い案内に For Books の記載はありません。DLsite の決済画面から Visa と Mastercard が消えた後、その 2 ブランドが表示される場所はそこだけでした。FC2 の運営法人は FC2, Inc.(米国ネバダ州・利用規約と会社概要の表記)で、通貨が USD/EUR で出ます。Steam は米国法人で、日本向けの決済に国内の決済代行 Degica が入っています(Degica が公言しているのはコンビニ決済など日本独自の手段で、カード決済まで担うかは画面から確定しません)。BIGSUN は割賦販売法の登録業者(九州(ク)第21号・大分)で、カード 3 種を円建てで通していますが、同社の FAQ は「弊社の決済元が海外となっております」と自己申告しています。国内の登録業者が、決済そのものは海外のアクワイアラに流す経路の実例です。4 つの顔は、業種ではなく、それぞれの法人がどこにいて誰と契約しているかで説明がつきます。
3. 国内には地図が 2 枚ある
国内の話に移ると、事業者が触っている「決済代行」には 2 つの層があります。
| 層 | 何をする層か | 数 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 登録層 | 加盟店契約を自分で結ぶ(割賦販売法の「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」) | 274 社(2026年8月末) | 経産省の登録一覧 |
| 非登録層 | 登録層の下にぶら下がり、加盟店を集める。割賦販売法の監督対象外 | 154 社・年間取扱高約 30 兆円 | 経産省の実態調査(2026年9月16日・PRL-2026-013) |
表 2: 当観測所の国内業者マスタ 20 社を登録一覧と照合すると、登録あり 10・なし 10 でした(2026年9月17日)。
この 2 枚は重なりません。片方は監督の中、片方は外です。事業者が契約しているのがどちらの層かで、止まったときに誰に何を聞けるかが変わります。そして 9 月 16 日の経産省の要請(カード会社に決済代行の審査を求める)は、非登録層の蛇口を上流で締める動きです。私の予報は、非登録層の決済代行を経由する加盟店で、審査落ちと解約が半年以内に増える、です。確度は中、制度変更からの推定です。外れたら、外れたと公表します(予報台帳 F-2026-003)。
4. 私が止められたときの計算
私も止められた側です。国際ブランド 2 つが同時に、コンビニ系のプリペイドはチャージバック率が閾値を超えたという理由で。どちらも代理店経由でしたから、交渉の相手は最初からいませんでした。
止まった日にやったのは抗議ではなく、翌月の売上をどの手段で受けるかの試算でした。コンビニ系は戻る見込みなし。カードは海外業者しか受けず、手数料は上がり、預り金が戻る保証もない。結論は「銀行振込の収納代行だけで回す」でした。
そのとき分かったのは、止めた側に理由を聞いても、答えは一つしか返ってこないということです。理由をぼかす定型句です。当観測所の記録でも、60 件中 5 件の停止理由が「総合的な判断により」「諸般の事情により」など、理由を特定しない型でした(PRL-2026-006・PRL-2024-013・PRL-2025-015)。あの一文を待つ時間で、別経路を 3 つ試した方が早い。この観測所を作った理由の半分はそこにあります。
いま同じ表 1 を見ると、当時の自分の選択肢が図 1 の左端で決まっていたことが分かります。日本法人のまま海外のアクワイアラに行く道は規則で閉じていて、残っていたのは国内の別の手段だけだった。業種を変えなくても、法人の所在を変えれば経路の数は変わる。それを勧めているのではありません。順番がそうだ、と言っています。
5. 事業者が自分で確認できる 2 つ
- 自分の決済画面の請求元の表記と通貨。そこに、契約している層と法人の位置が出ます
- 契約先が登録層か非登録層か。経産省の登録一覧で社名を引けば分かります
/now/ と観測表は、この 2 つを外から記録したものです。記録は一次資料と最終確認日つきで置いてあります。
記録: PRL-2022-003・PRL-2024-001・PRL-2024-013・PRL-2025-003・005・PRL-2025-015・PRL-2026-006・011・012・013/観測表 OBS-00072〜089・00113〜128・00129〜144/世界 IPSP マスタ v0.5 §9/国内マスタ v0.3/Visa Core Rules 18 April 2026 p.100〜103・p.108・p.635(10.4.5.1)・p.863(用語集 High-Integrity Risk Merchant)
2026-09-19 訂正: BIGSUN の経路の記述を、同社 FAQ の自己申告(決済元は海外)に合わせて改めました。